第三者割当増資で既存株主の持株比率はどう変わるか
この記事の要点
- 時価より著しく低い発行価格は有利発行にあたり株主総会特別決議が必要になりうる
- 手続きの適法性や株価算定は会社ごとに異なり専門家への確認が欠かせない
第三者割当増資で既存株主の持株比率は下がる。希薄化の割合は発行株数次第で決まる
第三者割当増資を行うと、既存株主の持株比率は新株発行分だけ必ず下がる。これを「希薄化」と呼び、下がり幅は新規発行株数と発行前の発行済株式総数の比率で機械的に決まるため、事前にシミュレーションしておくことが欠かせない。
第三者割当増資とは何か
第三者割当増資とは、既存株主以外の特定の第三者(取引先、投資ファンド、役員、取引金融機関など)に新株を引き受けてもらう形の増資のことを指す。公募増資のように不特定多数から資金を集めるのではなく、あらかじめ決めた相手に株式を割り当てる点が特徴で、中小企業や非上場企業が事業提携先やベンチャーキャピタルから出資を受ける際によく使われる手法である。
株主割当増資(既存株主の持株比率に応じて新株を割り当てる方法)とは異なり、第三者割当増資では既存株主が新株を引き受ける機会を持たない。そのため、増資後は既存株主の持株比率が相対的に下がることになる。
既存株主の持株比率はどれだけ下がるのか
希薄化の割合は、以下の式でおおよそ把握できる。
希薄化後の持株比率 = 増資前の保有株数 ÷ (増資前の発行済株式総数 + 新規発行株数)
例えば、発行済株式総数10,000株のうち2,000株(20%)を保有していた株主がいて、会社が新たに2,500株を第三者割当で発行した場合、増資後の発行済株式総数は12,500株になる。この株主の持株比率は2,000株÷12,500株で16%にまで下がる計算になる。発行株数が多いほど希薄化の度合いは大きくなり、逆に少額の増資であれば比率の低下は数%程度にとどまることもある。この下がり幅は会社の資本政策次第で大きく変わるため、一律の数字では語れない。
議決権比率への影響も同様の計算式で求められる。株式の種類によって議決権の有無が異なる場合(種類株式を発行しているケースなど)は、単純な株数割合だけでは判断できないため、定款や発行要項を個別に確認する必要がある。
有利発行にあたると既存株主から異議が出やすい
第三者割当増資で特に注意すべきなのが「有利発行」の問題である。新株を時価よりも著しく低い価格で発行すると、既存株主の保有株式の経済的価値が目減りすることになり、株主総会の特別決議(原則として議決権の3分の2以上の賛成)が必要になる場合がある。取締役会決議だけで有利発行を行うと、後に株主から差止請求や損害賠償請求を受けるケースがある。
発行価格が適正かどうかの判断は、類似会社比較法やDCF法など複数の評価手法があり、会社の状況によって妥当な算定方法が異なる。この株価算定の妥当性については、税理士や公認会計士、弁護士などの専門家に相談し、必要に応じて第三者算定機関の評価を取得しておくことが望ましい。
失敗しやすい進め方のパターン
第三者割当増資をめぐっては、次のような進め方が後々のトラブルにつながるケースがある。
- 既存株主への事前説明を省略し、取締役会決議後に通知するだけで済ませてしまい、少数株主から不信感を持たれるケース
- 発行価格の算定根拠をあいまいにしたまま決議を進め、後になって有利発行ではないかと指摘されるケース
- 既存株主(特に創業者一族や取引先株主)の持株比率が大きく下がることで、株主総会での議決権バランスが変わり、経営方針の決定に時間がかかるようになるケース
- 種類株式や優先株式を使う設計を検討せず、普通株式だけで増資したために、出資者が求める優先的な権利を後から作り直す必要が生じるケース
こうした事態を避けるには、増資の目的(資金使途)と希薄化の許容範囲を事前に整理し、既存株主に対してどの段階で、どの程度の情報を開示するかを決めておくことが実務上重要になる。資金調達と出口の教科書 資金調達の方法カテゴリの関連記事も合わせて確認しておくとよい。
手続きの一般的な流れ
非公開会社(譲渡制限株式を発行している会社)の場合、第三者割当増資は おおよそ以下の流れで進むことが多い。ただし会社の機関設計(取締役会設置の有無など)によって必要な手続きは異なる。
- 資金使途と増資規模、引受先の検討
- 発行価格・発行条件の検討(有利発行に該当しないかの確認を含む)
- 株主総会の特別決議、または取締役会決議(定款の授権資本の範囲内かどうかで異なる)
- 募集事項の通知・公告(既存株主に対する一定の開示)
- 引受先による申込みと払込み
- 登記事項の変更登記(発行済株式総数・資本金の変更)
非公開会社で既存株主以外に新株を割り当てる場合、原則として株主総会の特別決議が必要になるのが会社法上の建前だが、定款で取締役会に委任している場合などは取り扱いが異なる。具体的な手続きの適否は、会社の定款や登記情報を踏まえて司法書士や弁護士に確認することが欠かせない。会社法上の規定の詳細は法務省の案内なども参考になる。
既存株主としてチェックすべきポイント
自社が増資を受ける側ではなく、既存株主の立場で第三者割当増資の通知を受けた場合は、次の点を確認しておくとよい。
- 発行価格はどのような方法で算定されたか、算定根拠の開示があるか
- 増資後に自分の持株比率・議決権比率がどの程度下がるか
- 増資の資金使途は何か、経営への影響をどう見込んでいるか
- 引受先との間に、今後の経営方針に関わる契約(優先株式の条件や取締役選任権など)が結ばれていないか
持株比率が大きく下がることへの懸念がある場合は、会社に対して質問書を送ったり、必要であれば弁護士に相談して差止めの可否を検討したりする選択肢もある。ただし、差止めが認められるかどうかは個別の事情によって結論が分かれるため、断定的な判断は専門家に委ねる必要がある。
まとめ
第三者割当増資は、既存株主以外から機動的に資金を調達できる手法である一方、既存株主の持株比率・議決権比率を必ず下げる手続きでもある。希薄化の度合いは発行株数とのバランスで決まり、発行価格が不当に低いと有利発行として争われるリスクもある。増資を検討する会社側も、通知を受ける既存株主側も、算定根拠と手続きの適法性を確認したうえで、税理士・弁護士など専門家の助言を受けながら進めることが望ましい。中小企業の資金調達の選択肢を幅広く比較したい場合は、中小企業庁の公表資料も参考になる。
よくある質問
- Q. 第三者割当増資をすると既存株主の権利はどうなりますか
- A. 保有株式そのものが失われるわけではないが、新株発行分だけ発行済株式総数が増えるため、持株比率と議決権比率は相対的に下がります。配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利も、比率に応じて目減りする形になります。
- Q. 既存株主に事前の同意は必要ですか
- A. 非公開会社で既存株主以外に新株を割り当てる場合、原則として株主総会の特別決議が必要になることが多いですが、定款の定めや会社の機関設計によって扱いが異なります。会社法上の具体的な要件は司法書士や弁護士に確認することをおすすめします。
- Q. 発行価格が不当に低いと感じた場合、既存株主は何ができますか
- A. 発行価格の算定根拠について会社に説明を求めたり、有利発行にあたると考えられる場合は差止請求を検討したりする余地があります。ただし個別の事情によって結論は変わるため、弁護士など専門家に相談して判断することが望ましいです。



